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プロに勝った卓球ロボット「Ace」とは何者か|AIとスポーツの未来を卓球好きが考える

ソニーAIの卓球ロボット「Ace」が2026年4月、プロ選手に勝利。何がそんなに強いのか、過去のフォルフェウスや他競技のAIと比べてどこが新しいのか、そして自分が打ったら勝てるのかを、卓球好きの目線で考えてみました。

みはる · 2026年6月3日

SNS のタイムラインに「卓球ロボットがプロに勝った」という言葉が流れてきたとき、私は思わずスマホを二度見しました。卓球は観るのも打つのも好きで、日本代表の試合は配信で追いかけているのですが、ロボットがプロに勝つなんて話はちょっと現実味がなかったからです。

調べてみたら、ソニーAIが開発した自律型の卓球ロボット「Ace」のことでした。ソニーAI公式を見てみたら、この成果をまとめた論文「一流卓球選手に勝る自律型ロボット」が、2026 年 4 月 22 日に発行された国際科学誌 Nature(第 8110 号)に掲載され、表紙も飾ったそうです。スポーツ競技で一流選手に勝った自律システムとしては世界初らしく、読んでいて鳥肌が立ちました。

気になるのは「何がそんなにすごいのか」と「自分が打ったら勝てるのか」の 2 つです。同じ卓球好きとして、この引っかかりを順番にほどいていきます。

Ace はどれくらい強いのか

まず気になったのが、Ace がどのレベルの相手にどう勝ったのかです。FabSceneによると、論文の段階では国際卓球連盟(ITTF)のルールに基づく試合で、トップクラスの選手 5 人とプロ選手 2 人を相手に評価され、トップクラスの選手には 5 戦 3 勝だったそうです。

さらに驚いたのが、論文を出したあとも試合を重ねて強くなっている点です。ソニーAI公式を読んでみたら、時期を追うごとに相手も結果も上がっていました。

時期 対戦相手 結果
論文時点 トップクラス選手 5 人・プロ選手 2 人 トップクラスに 5 戦 3 勝
2025 年 12 月 プロ 2 人・一流 2 人 一流 2 人に勝利、プロは 1 勝 1 敗
2026 年 3 月 プロ 3 人 3 人全員から少なくとも 1 勝

プロ選手 3 人全員から 1 勝ずつ挙げている、という事実が一番こわいところです。「強い相手とやるほど強くなった」という開発側の言葉もソニーAI公式に出ていて、まだ伸びている途中なんだと感じました。

何が「別のスポーツ」と言われるのか

そもそも Ace は何でできているのか。技術の細かいところは私には分かりませんが、調べた範囲で噛み砕くと、ソニー独自のセンサー技術と、状況に応じて自分で判断する学習の仕組み、そして精密なハードを組み合わせたものらしいです。

ソニーAI公式によると、認識・計画・制御を千分の一秒のレベルで行うことが求められる分野で、人間の反応速度の限界に迫る速さと精度を実現しているそうです。あらかじめ決めた動きをなぞるのではなく、その場でどう打つかを判断している、という理解で私は読みました(詳しい人が見たら違うかもしれませんが)。

回転への対応もすさまじくて、FabSceneでは最大 450rad/s の回転がかかったボールにもリターン率 75% 超を安定して達成していて、これは競技用卓球ロボットでこれまで報告された値を大きく上回るとありました。数字の意味は正直よく分からないのですが、とにかく桁違いということは伝わってきます。

そして一番ぞくっとしたのが、対戦したプロ選手のコメントです。GIGAZINEに載っていた平真由香選手の言葉を引用します。

このロボットの強みは予測が非常に難しく、感情を表に出さないことです。相手の反応を読み取ることができないため、どんなショットを嫌がるのか、どんなショットに苦戦するのかが全く分からず、対戦するのがさらに難しくなります

これを読んで、私はスマホを持つ手が止まりました。人間同士の試合で私が観ていて一番好きなのは、相手の嫌がるところを突き合う駆け引きや、ミスのあとの表情なのです。それが通用しない相手というのは、たしかに「別のスポーツ」と呼びたくなる気持ちが分かります。

卓球ロボットは Ace が初めてじゃない

ここで思い出したいのが、卓球ロボットは Ace が初めてではないということです。オムロンの「フォルフェウス(FORPHEUS)」を、テレビや展示会のニュースで見たことがある方も多いと思います。

オムロン公式を見てみたら、フォルフェウスはオムロンのコア技術「Sensing & Control +Think」を象徴するロボットで、人と機械が協働して人の可能性を引き出す、というコンセプトでした。最新の第 9 世代では「人と機械のコミュニケーションは片方向から双方向へ」をテーマに、大規模言語モデル(文章を生成する AI のこと)を初めて積んで、ラリーの状況や会話を言葉にして AI に渡せるようになったそうです。

ここが Ace との大きな違いだと思います。私の理解では、フォルフェウスはラリーを続けてくれたり教えてくれたりする「相棒型」「コーチ型」で、人を負かすことが目的ではありませんでした。それに対して Ace は、勝ちにくる。同じ卓球ロボットでも立っている場所がまるで違うのだと、並べてみて初めて腑に落ちました。

他のスポーツでも人間 vs AI は始まっている

卓球だけの話なのかというと、そうでもありません。他の競技でも、人間とラリーするロボットや AI が出てきています。

  • バドミントン:スイスの研究チームが四足歩行ロボットの胴体からアームを伸ばし、人間とラリーする実験を公開。ITmediaによると、強化学習という手法でコート内の移動やスイングを訓練し、風のある屋外でも人間と 10 回連続でラリーを続けたそうです。
  • テニス:ボールを出してラリー相手になってくれる練習用の球出し機が市販されています。あくまで決まった球を出してくれる練習相手で、Ace のように人を負かしに来るものではありません。
  • 体操:富士通と国際体操連盟が共同開発した採点支援システムが、富士通公式によると 2023 年の世界選手権で全 10 種目に導入され、選手の動きをカメラで捉えて AI が技を自動判定し、審判の採点を支えているそうです。

正直に言うと、動画で観たバドミントンの四足歩行ロボのラリーは、まだ「がんばって続けてくれる練習相手」の域に見えて、Ace のように人を負かしに来る怖さは感じませんでした。体操の AI も「審判を助ける側」です。こうして横に並べてみると、卓球の Ace だけが「練習相手」や「審判」の段階を飛び越えて、いきなり「プロに勝つ対戦相手」まで来てしまった、という位置づけに見えます。スポーツにおける人間 vs AI という大きな流れの中で、卓球はかなり先頭を走っている印象です。

じゃあ自分が打ったら勝てるのか

ここまで来ると、卓球好きとしては「で、自分なら勝てるの?」が抑えきれません。市民レベルでたまに打つ程度の私が、正直に考えてみます。

攻略の入口としてよく挙がるのが、ナックルサーブ(回転をほとんどかけないサーブのこと)です。回転を読んで反応するのが得意な相手なら、回転がないサーブで判断を狂わせられるかもしれない、という指摘です。でも、450rad/s の回転を 75% 超で返してくる相手が、回転のないボールだけ苦手というのは都合がよすぎる気もします。

何より、平選手が言っていた「感情を表に出さない」という点が、私にはこたえます。私が下手なりに楽しいと思うのは、サーブで揺さぶって相手がムッとする瞬間や、競って声が出る空気なのです。Ace 相手だと、私が打ち負けても相手は涼しい顔のまま。きっと私は一本も取れずに、それでも妙に静かなまま終わるのだろうな、と想像して少し背筋が寒くなりました。勝てるかどうか以前に、打っていて寂しいかもしれません。

卓球というスポーツはこの先どうなるのか

The Guardianでも、開発側が「より強い選手と戦い、より強い選手に勝ってきた」と語っていました。ここまでの伸び方を見ていると、人間が勝てなくなる日もそう遠くないのではないかと、私は正直感じています。

それでも、私は人間同士の試合を観る楽しさが消えるとは思いません。ここははっきり言い切ります。私が録画してまで観るのは、早田ひな選手のフォアの一発や、張本智和選手が雄叫びを上げる瞬間や、競り合いで表情がこわばる時間が好きだからです。Ace がどれだけ強くなっても、その揺れは人間の試合にしかありません。

ロボットが速くて正確で感情がないからこそ、人間の選手がミスにうなだれてまた立て直す姿が、よけいに尊く見えます。プロに勝つロボットが現れた今だからこそ、推しの試合の前で声を上げて、こぶしを握って観る時間を、私はこれからも手放さないつもりです。