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卓球の世界ランキングはどう決まる?樊振東・陳夢の「離脱」から仕組みを読み解く

卓球の世界ランキングはどう決まるのか。2024年末に金メダリストの樊振東・陳夢が自分から順位を手放した「離脱」を入り口に、上位8大会の合算ポイント・出場義務・棄権ペナルティ(ZPP・罰金)まで、一次情報で裏取りして読み解きます。

ひさと · 2026年6月7日

1位級の選手が、自分からランキングを消すという話

2024年12月27日、パリ五輪男子シングルス金メダリストの樊振東(ファン・ジェンドン)が、SNS『微博(ウェイボー)』で世界ランキングからの離脱を申請し受理されたと発表しました。その約4時間後に、女子シングルス金メダリストの陳夢(チェン・ムン)も同じ申請を出したと報じられています。卓球王国の記事によれば、当時の世界ランキングで樊振東は男子6位、陳夢は女子4位でした。

金メダルを取ったばかりの、1位級と言っていい選手が、自分から順位を手放す。負けて順位が下がるのとは違って、これは卓球の世界ランキングという仕組みそのものを知らないと、なかなか意味がつかめません。

先に結論だけ言ってしまうと、トップ選手ほど「出続けないと順位が下がり、棄権すれば重い罰金が課される」枠の中にいて、離脱はその枠の外に出る選択でした。なぜそうなるのかを、ランキングの決まり方から順に見ていきます。これは速報として追う話というより、ランキングの読み方そのものが変わる話だと思っています。

そもそも世界ランキングは誰が出しているのか

卓球の世界ランキングを管理しているのはITTF(国際卓球連盟)です。そして大会を運営しているのが、ITTFと結びついた興行ブランドであるWTT(ワールドテーブルテニス)になります。観戦していると「WTTチャンピオンズ」「グランドスマッシュ」といった大会名をよく目にしますが、あれを回しているのがWTTで、そこでの成績がITTFのランキングに反映される、という関係です。

ランキングは毎週更新されます。テレ東卓球NEWSの世界ランキングページには「毎週火曜日更新」と明記されていました。

試合中継のテロップで見る「世界ランク◯位」が、毎週のように上下しているのはこのためです。誰かが大きな大会で勝てば動くし、逆に去年のポイントが期限切れになるだけでも順位は変わります。

ポイントは「出た大会の上位8つ」だけを足す

調べていて一番引っかかったのがここでした。WRポイント(世界ランキングポイント)は、出場した国際大会の成績で貯まっていくのですが、出た大会すべてを足すわけではありません。早田ひなライブラリーの解説によれば、有効なポイントのうち高いものから最大8つを合算した値が、その時点の保有ポイントになります。ポイントには有効期限があって、1年経つと失効する仕組みです。

つまり、出場数が多いほど青天井で増えるわけではなく、自分の高得点だった8大会で評価される、ということです。ここで誤解しやすいのですが、ただ欠場しただけで0点が足されて下がるわけではありません。問題になるのは、これまで自分の得点源だった大会を欠場したときです。1年で古いポイントが失効していくのに、その穴を埋める新しい高得点が入ってこないと、合算する上位8つの中身が低い大会ばかりになって、合計が下がります。

樊振東の6位への下落も、これでした。卓球王国の記事では、出場しなかったWTTチャンピオンズ・フランクフルト/モンペリエの2大会やチャイナスマッシュ、WTTファイナルズ福岡などのポイントが「0」として計算されている、と説明されています。本来そこで稼げていたはずのポイントが入らず、過去の貯金が失効していった結果の下落で、試合に負けて落ちたわけではない、という構造です。

大会のランクでポイントがまるで違う

もうひとつ大事なのが、大会ごとに獲得できるポイントがまったく違うことです。同じ優勝でも、格上の大会で勝つのと、下位の大会で勝つのとでは桁が変わります。シングルス優勝で得られるポイントを並べてみます。

大会 優勝ポイント
グランドスマッシュ 2000
WTTファイナルズ 1500
WTTチャンピオンズ 1000
WTTスターコンテンダー 600
WTTコンテンダー 400
WTTフィーダー 125

グランドスマッシュ優勝の2000ポイントは、オリンピックや世界選手権の優勝と同じ点数だと時の話題ニュースの解説で説明されていました。これらの数字は大会の改定で動くので、最新は公式で確かめるのが安全ですが、格の差がこれだけあるのはイメージできると思います。

そして悩ましいのは、ポイントが高い上位大会ほど、世界ランク上位の中国選手が数多く出てくるため優勝が難しい、という点です。早田ひなライブラリーの解説もそこに触れていました。点が大きい大会ほど勝ち抜くのが過酷、という構造になっています。

古いポイントは時間とともに目減りしていく

貯めたポイントはずっと保持されるわけではなく、時間が経つと目減りしていきます。早田ひなライブラリーの解説でも、ポイントの有効期限は1年で、それを過ぎると失効すると説明されていました。さらに、去年獲得した分は段階的に減額されていく、という説明も見かけました。

上の張本智和の順位ニュースでも、「WTTのポイント失効で順位変動」という見出しが繰り返し出てきます。何もしていないのに順位が動くことがあるのは、自分のポイントの一部が期限切れで消えていくからです。

細かい減額の割合までは出典によって書き方がまちまちで、私には正確なところを言い切れません。ただ、大事なのは結論のほうで、トップ選手でも出続けないと順位は維持できない、ということです。これが次の「出場義務」の話につながる土台になります。

張本智和の順位はこう動いてきた

ポイント合算の仕組みが実際の選手の動きにどう表れるか、張本智和の世界ランキング推移を時点つきで並べてみます。順位は「何年何月時点か」が命なので、出典ごとに発表日を添えました。

時点 順位 出典
2022年11月22日発表 2位(当時の自己最高・日本男子歴代最高) 卓球王国
2024年11月26日発表 3位 テレ東卓球NEWS
2025年第21週 4位(日本勢最高位) ラリーズ
2026年5月25日発表 2位(約3年半ぶりに自己最高位タイ) スポーツ報知

2022年11月に初めて2位へ上がったときは、アジアカップ優勝で馬龍・王楚欽を抜いての浮上でした。一方で2026年5月の2位は、上にいたモーレゴードが世界卓球のポイントを失効させて順位を落とした影響もあったとラリーズの記事で説明されています。報道の見出しだけ見て「また2位だ」と喜んだあとで、中身が勝っての浮上と繰り上がりとでこれだけ違うのかと、表にして並べて初めて腑に落ちました。同じ「2位」でも、自分で勝って上がるのと、上の選手のポイントが消えて繰り上がるのが混ざっているわけです。

トップ選手には「出ること」が義務づけられている

ここまでで「出ないと0点で落ちる」「出続けないとポイントが目減りする」という話をしてきましたが、さらにその上に、上位選手には大会への出場義務がありました。点が下がるから出る、という話だけでなく、制度として出ることが前提にされていたんですね。

ただ、この出場義務は2025年に大きく変わりました。卓球王国の記事によれば、WTTは2025年以降の運営で、グランドスマッシュへの強制参加義務を撤廃し、WTTチャンピオンズについても年間2大会の参加免除を認める、と発表しています。離脱事案のあと、出場の枠組み自体が選手の負担軽減の方向へ動いた形です。

つまり、樊振東・陳夢が離脱した2024年末の時点では、上位選手は基本的に出ることが求められる枠組みの中にいた、と理解するのがよさそうです。過密な年間スケジュールがその上に乗っていたことも、いくつかの報道で繰り返し触れられていました。

棄権すると何が起きるのか――ZPPと罰金

出場義務とセットで効いてくるのが、棄権したときのペナルティです。出ると決まっている大会を直前で取りやめると、何も起きないわけではありません。

ひとつは、対象大会のポイントを0にして一定期間維持する措置です。これは大会を運営するWTTのハンドブックではなく、ランキングを管理するITTFの世界ランキング規定に定められたものです(PingSkillsの解説)。提出期限を過ぎてから棄権すると、その大会の枠が0ポイントとして約1年間(12か月)維持される扱いになります。これがZPP(ゼロポイント・ペナルティ)と呼ばれていて、主にWTT主催大会の棄権が対象です。期限後に棄権すると、合算する上位8大会のうち1枠が0で固定されるイメージです。

同じPingSkillsの解説でも、期限後の棄権はその選手の上位8大会に12か月間の0ポイントペナルティをもたらす、と説明されています。

実際にトップ選手の棄権は珍しくありません。WTTファイナルズ香港2025の準決勝前には、世界ランキング1位の王楚欽(ワン・チューチン)が負傷で棄権し、決勝から中国男子が姿を消す場面がありました(SPREADの報道)。あのとき画面の前で、こんなことが起きるのかと声が出たのを覚えています。

もうひとつが、強化された罰金規定です。卓球王国の記事によれば、WTTの本戦に出場するシード選手が期限後に大会を棄権した場合、罰金額は世界ランキング1〜10位で5000ドル(約79万円)、11〜20位で2500ドル(約39万円)で、しかも棄権時には従来の2倍が課せられるとされています。順位が高いほど棄権の代償が大きい、という設計です。

だから「離脱」という選択になった

ここまでの仕組みを並べると、樊振東と陳夢の離脱が、感情的な抗議というより制度の帰結として見えてきます。出続けないとポイントは目減りして順位は下がる。かといって棄権すれば罰金がかさむ。上位にいるほど罰金は重い。出ても出なくても削られる枠の中に、五輪後で消耗した選手が置かれていました。

卓球王国の記事でも、樊振東・陳夢の離脱は、棄権時の新たな罰則規定が大きな要因になったと本人たちが述べている、と伝えられています。ランキングから離れることは、この義務とペナルティの枠の外に出る、というひとつの選択だったのだと思います。

ここで気をつけたいのは、これをもって「WTTが悪い」「中国が強引だ」と断じる話にはしたくない、ということです。私は運営の内情を知る立場にありませんし、過密日程の是正は選手のためでもあります。実際、離脱の波紋のあとにWTTは強制参加の撤廃などルール変更に動き、レコードチャイナの報道では、世界ランキングを離脱した樊振東と陳夢の出場資格を確保する措置にも触れられていました。制度は、批判の対象というより、いまも動いている枠組みとして眺めるのがちょうどいい気がします。

仕組みを知ると、ランキング報道の見え方が変わる

仕組みを一通り追ってみて、私自身、ランキング報道の読み方が少し変わりました。「順位が下がった」というニュースを見たとき、これまでは反射的に「負けたんだな」と思っていました。でも今は、「出なかった大会が0で計算されたのかな」「去年のポイントが失効したのかな」という別の可能性も頭に浮かびます。

もうひとつ習慣にしたいのが、順位を語るときに必ず「何年何月時点か」を添えることです。張本智和の例で見たとおり、同じ「2位」でも年によって中身がまるで違いました。時点を外すと、その順位が何を意味していたのかが曖昧になります。

そして、ここまで書いてきたポイントや罰金の数字は、制度変更でわりと頻繁に動きます。実際、出場義務も2025年に大きく変わりました。なので最新を知りたいときは、WTTやITTFの公式を確かめるのが確実です。仕組みの骨格さえ掴んでおけば、次にルールが変わったときも「どこが変わったのか」として受け取れます。観戦が少しだけ立体的になる、そんな視点として手渡せたらうれしいです。